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大阪高等裁判所 昭和50年(行コ)15号 判決 1977年11月10日

宇治市大久保町北山一六番地の一

控訴人

宇治税務署長

喜多貞雄

右指定代理人検事

宗宮英俊

同法務事務官

大原延房

同市神明石塚七七番地の七

被控訴人

森惣一

右訴訟代理人弁護士

田辺照雄

主文

一、原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

二、被控訴人の請求を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、当事者の主張

次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  被控訴人が事業の用に供したと主張する五〇三坪強の土地(茶畑)は、場所の特定は勿論、面積についても確たる証拠がない。のみならず、本件係争部分の茶畑は、訴外山本幸助らが開拓、植栽したのであるが、同人らが茶の収穫をしていた当時ですらあまり良い茶がとれず、せいぜい自家用程度のものであり、その後被控訴人は右茶畑に関し一鍬も入れずに茶の収穫のみしたというのであるから、その茶畑から「番茶と柳」を製造し、昭和三九年度に九万二、〇〇〇円、昭和四〇年度に五万円もの所得(収益)をあげたということはありうべからざることである。

(二)  また、被控訴人は、昭和三九、四〇年度まで農業所得の申告として、茶の製造販売による所得の申告をしているが、同四一、四二年度は無申告(申告書所定欄白紙)のまま、昭和四三年に至り農業所得として「畑宇治天神三五、 〇円」との申告をしているが、この四三年度の申告は旧措置法の適用(買換資産)を意識したものであることは明らかである。

(三)  仮に被控訴人が五〇三坪の土地(茶畑)を事業の用に供したとしても、そのうち被控訴人の所有に属するのは共有割合による二分の一であり、したがつて、被控訴人の事業用資産として認められる面積は二五一・五坪である。

(四)  旧措置法三八条の六は所得税法三三条に対する特別規定であるから、旧措置法の特例による計算の適用を受けようとする者は同法の定める要件該当の事実について主張・立証責任を負うと解すべきであるから、本件について事業用の資産である事実につき被控訴人は立証責任を負担する。

2  被控訴人

(一)  控訴人の当審主張は全部争う。

本件係争地は、訴外小山政一の耕作していた宇治市神明五四番の七、八、二〇を除き、昭和三七年ころから土地の占有者が存在しなくなつていた。被控訴人は、訴外森伊三男と共にそのあとで本件土地を占有し、農業用地として収益をあげていた。茶畑は、訴外山本幸助、同青山善一らが開拓者として茶を植えたものが成長したものであるが、同人らは本件土地について不法占有者の立場にあるものであり、その植栽した茶の所有権は本件土地の共有者である被控訴人と訴外森伊三男に帰属し、その茶を被控訴人が茶畑として手入し、収益をあげていた以上、本件土地のうちその部分について被控訴人が農業の用に供していたというべきである。

(二)  被控訴人は、昭和三九、四〇年度は本件土地の茶畑からある程度の収益があつたので所得として申告し、同四一年度も茶畑として事業の用に供していたが申告するほどの収益がなかつたものである。

(三)  共有物件を共有者の一部が事業用資産として使用収益している場合でも、事実用資産であることにはかわりがなく、ただ事業用資産の買換えについての税法上の恩典は、事業用資産として使用収益してきた者に、その者が当該共有物件の処分によつて得た収入の範囲で与えられるべきものと解するのが正当であり、本件について、事業資産として認められる面積が二五一・五坪であるという控訴人の主張は失当である。

三、証拠

次に付加するほか原判決証拠関係記載と同一であるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  乙第一八ないし第二〇号証

(二)  当審証人青山善一、同山本幸助、同田和喜太郎。

(三)  甲第八、九号証の成立は不知。

2  被控訴人

(一)  甲第八、九号証

(二)  宇治農協に対する調査嘱託、当審証人鈴木芳朗、同森伊三男、被控訴人(第一、二回)。

(三)  乙第一八ないし、第二〇号証の成立を認める。

理由

一、本件の事実関係についての当裁判所の判断は、原判決理由冒頭から原判決一二枚目裏五行目の終りまでは原判決記載と同一であるから、これを引用する。

成立に争いがない甲第三号証の二、乙第一号証、乙第二ないし第一〇号証の各二、乙第一六号証、乙第一七号証の一、二、当審証人山本幸助、同青山善一、同田和喜太郎の各供述、原、当審(第一、二回)における被控訴人の供述の一部を総合すると、次の事実が認められる。

本件土地はもともとやせて収穫に乏しかつたが、その一部に訴外山本幸助、同青山善一、同田和喜太郎が茶の植栽し、昭和三二年ころから摘取りをするようになつたものの、品質が良くないため自家用や親戚に配る程度のもので、他に売れるようなものでなかつたが、原審認定の訴訟を維持するため占有の継続を意識し、手間賃が高いことなどの事情から茶の木が伸びないように剪定する程度で、特に茶摘みをすることなく耕作を続けていた。

被控訴人は、昭和三九年ころから、本件土地のうち茶畑になつているところや、その他茶が点在しているところで茶の新芽を摘み、番茶や柳に加工して自宅で小売したが、茶を摘むようになつた動機は、右山本ら茶の植栽者が放置しているので、同人らと訴訟中ではあるがもつたいないと考え茶摘みをしたもので、夏に茶畑の草取をしたようなことはあるが、肥料を施したようなことはなく、また、そのころ被控訴人以外の者がその茶畑を刈つた跡を現認したこともあつた。

被控訴人は、以前から田畑を所有し農業を営むかたわら茶の小売を業としていたが、右のように本件土地から茶を摘取り自宅で販売し、昭和三九年、同四〇年度の所得税の申告に当り、税務署吏員の指導により、昭和三九年度農業所得(茶畑)九万二、〇〇〇円、昭和四〇年度同五万円の申告をしたが(昭和四一年同四二年度は農業所得の申告をしていない)、その申告内容は被控訴人自身の申出によるものではなく、税務吏員が被控訴人と面談のうえ記載したものである。

当審証人鈴木芳朗の供述により成立を認める甲第八号証、同証人の供述及び原、当審における被控訴人の供述中右認定に反する部分は措信しない。

二、以上認定の本件土地の開墾、茶の植栽、訴訟の係属、その後の土地占有の状況、被控訴人による茶の収穫状況、調停成立による本件土地の明渡などの事情を総合して判断すると、なるほど被控訴人は本件土地のうち茶畑部分等から茶を多少摘取り、これを自宅で小売し、昭和三九、四〇年度は茶収穫による所得を申告しているが(この所得申告は前記のとおり税務吏員の指導によるもので必ずしも客観的事実に基づくものとは認め難い)、その茶畑に対する排他的な占有を有していたとは認められず、かえつて、訴外高田らが本件土地を開拓し、以来茶の木を植栽するなどして占有を継続してきたと認めるのが相当であり、前記のような事実関係のもとにおいては、被控訴人が自ら農業用として収入を得るため耕作していたものと認めることはできず、旧措置法三八条の六第一項所定の事業用譲渡資産性を欠くものというべきである。

三、右のように本件土地の譲渡について、旧措置法三八条の六の規定を適用することはできないが、同法三五条の規定を適用して被控訴人の昭和四二年度分譲渡所得の金額を計算すると、原判決五枚目表一一行目から同六枚目表一一行目まで記載のとおり(基礎となる事実関係については当事者間に争いがない)金六一六万一、七六五円と算出される。

そこで、引用にかかる原審認定の事業所得、雑所得及び右譲渡所得を合算した総所得金額金六二一万一、七六五円から、当事者間に争いがない所得控除額金四五万四、五〇〇円を控除した課税所得金額金五七五万七、〇〇〇円を基にして所得税を算出すると金一九五万九、四五〇円であるが、これから源泉徴収税額を差引くと所得税は金一九五万七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となるところ、右金額により所得税額の更正をし、過少申告税額金八万四、五〇〇円の賦課を決定した本件更正処分に違法はない。

そうすると、本件更正処分の違法を主張する被控訴人の本訴請求は理由がない。

四、よつて、右と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の本訴請求を棄却し、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 志水義文 裁判官松浦豊久は退官につき署名押印できない。裁判長裁判官 小西勝)

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